温泉の効能(1)

成分による温泉の分類

 今回は「温泉の効能について」をテーマにお話を進めていきたいと思います。

 地下から湧出した水の分析の内容が温泉法第二条に適合すると、その水は温泉と認定され、湧出地の県の温泉台帳に登録されます。登録された温泉は利用許可を得て営業することが出来ます。

 温泉を利用する施設は、浴槽に近い場所である更衣室内か、入り口等利用者の目につきやすい所に、温泉分析表と別表を掲示することが義務づけられています。

 皆さんも温泉に入るときは、この温泉分析表と別表を見ることをお勧めします。分析表には温泉の泉質が明示され、別表のは温泉入浴に関することが書かれています。入浴の禁忌症として、表示された症状の人は入浴しないこととなっています。次に入浴の適応症として温泉の効能が示されています。温泉の効能は、温泉に含まれている無機成分が体に直接作用しますので泉質により効能が異なります。

 日本の温泉の泉質の分類は昭和45年には14種類であったのですが同54年8月の温泉法改定で9種類になっています。それでは泉質別に効能を解説してみたいと思います。

 温泉に入る、温泉を飲む場合の様々な効能が示されていますが、日本では飲泉を許可してる県が少ないので、今回は入浴の効能についてのみお話します。

食塩泉

 正式にはナトリウム一塩化物泉の事です。【熱の湯】といわれています。入浴後、皮膚に塩分が付着して発汗を防ぐため、何時までもぽかぽかと暖かく、寒いときは特に高年齢に喜ばれます。

 最近になり温泉の掘削深度が1,500mと深くなったことから、山の中でも食塩泉の温泉が多くみられます。このことは、日本列島が今日まで3回の造山運動が繰り返されたことから、かつては海であったところです。成分の塩分濃度は少し低いのですが、他の成分は海水に似ています。泉水1キログラム中に食塩(塩化ナトリウム)15グラム以上含むものを強食塩泉(ゾール泉)、5グラム以下のものを弱食塩泉とに分けています。弱食塩泉は昔から海岸の温泉に多くあり、もっとも緩和性のある温泉で、病後の回復にもよく、慢性リューマチや、手足の冷え、打ち身捻挫などにも効果があります。この他不妊症、女性性器の疾患に良いとされています。熱海温泉の最盛期には石鹸が泡立たなくて話題になりました。平成5年に香川県のクワタラソさぬき津田で、海水の浴槽を試み、入浴するとべたべたする事もなく、快適で利用者に喜ばれました。人間は海水から誕生したからでしょうか海水に馴染むようです。海水は温泉と認められません。なぜか不思議に思われます事の一つです。

 静岡県で、「富士山の見える所には、温泉が出ない」と言うジンクスがあったそうでが、裾野市に1200mの井戸を掘ったら、濃度の高い食塩泉の温泉が湧出しました。温泉施設を開業したところ、塩分効果が人気を呼び大変繁盛しました。2年が過ぎた頃少し大きな地震があり、塩分浪度が下がってしまい、 いろいろ井戸に対策を試みたのですが、回復しませんでした。

 食塩泉の塩分濃度が薄れた温泉は魅力がなくなり利用者が激減して、遂に閉館となりました。人間の体が感じる反応には素晴らしいものがあると同時に、人気の恐ろしさも見た思いです。25年ほど前の話です。

硫黄泉

 水硫イオンまたは水硫イオンと共にチオ硫酸イオン、あるいは遊離硫化水素を含有し、水1キログラム中に硫黄の総量が1ミリグラム以上に達し、温泉の特異作用が硫黄によるものと確認されたものを硫黄泉といいます。

 温泉場に到着すると、ああ~温泉に来たと実感する温泉独特の匂いが、遊離硫化水素の卵の腐ったような匂いです。硫化水素は鉄、銅、スズ、亜鉛などの金属と強力に反応して硫化物を作ります。10円玉や眼鏡のフレーーム、ネックレス、時計のバンドなどはたちどころに黒く変質します。硫黄泉の温泉に行った時は身の回りの金属品に気を付けましょう。

 効能としては「たんの湯」と言われ、たんを出やすくするので、慢性気管支拡張症、動脈硬化、しもやけ、白ろう病などに有効です。硫黄には解毒作用があるので、金属中毒や薬物中毒にも有効です。皮膚の角質を軟化溶解するので、皮膚掻痺(そうよう)症、慢性湿疹などの皮膚病に良く、水虫や赤ちゃんの汗疹に効果があります。そのはか慢性リュウマチ、心臓病、糖尿病の改善に役立ちます。

 硫黄泉は湧出時には無色透明でも時間とともに酸化され、黄色や灰色になります。登別温泉などで、五色の湯とあるのは、硫黄泉がいくつかの色に変わるので、この名をつけたものです。この温泉は刺激が強いので病弱者や皮膚、粘膜の弱い人には向かないようです。石鹸はききません。良く温まる温泉として喜ばれています。

 硫化水素ガスは猛毒で、戦前の日本陸軍が毒ガス兵器として研究がなされていたものです。このガスは空気よりも重く、湯面の丁度顔面のところに漂い、血液中のヘモグロビンと反応して中毒をおこし意識を失います。ガスの濃度が薄いときは匂いを感じますが、濃くなると匂いを感じなくなりますので、極めて危険です。濃度が高い時は死に至ります。硫化水素のある温泉の浴槽は湯面の換気を良くする対策の規定があり、事故の無いよう配慮されています。このような対策の無かった時は、鳴子温泉などで死亡事故が記録されています。硫化水素ガス中毒は出来るだけ早く新鮮な空気を吸わせることです。スキーに来た女子大のお客様が湯船で中毒になりましたが、支配人の指示で裸のまま外の雪面に寝かせて、間もなく回復し事なきを得たという実話があります。ガス濃度の高い源泉は脱硫装置を付けて対応しています。

単純二酸化炭素泉

 水1キログラム中、遊離炭酸1,000ミリグラム以上を有し、固形成分は1,000ミリグラムに満たないものをいいます。日本のような活火山の多い国では数が少ない温泉です。

 炭酸ガスは皮膚、粘膜などの毛紺血管や紺少動脈を拡張する作用があります。とくに手や足の血管が拡張しますので、手足の先まで血流が良くなり、心臓に負担をかけなくても、体全体の血液の循環が良くなります。高血圧症、心臓の弱い方には最適です。ヨーロッパでは「心臓の湯」と呼ばれてます。その他インポテンツ、更年期障害、不妊症、リュウマチに効果あります。炭酸泉は温度が低く、溶けてる炭酸ガスが無数の泡となって、シュワーと皮膚につくので、まことに心地よい温泉で、「泡の湯」といわれています。

 温泉医学のドイツではこの炭酸泉の温泉が多く、クワハウスで使われています。クワハウスでの入浴は36~37℃(自分の体温との差が少ないので、入浴時にエネルギーを消耗しません。この温度を不感温度といいます)の浴槽に30分一入り、30分間で休みます。このパターンがドイツの基本的な入浴法のようです。大量の炭酸ガスの細かい泡が毛穴について、心が癒されます。

 ドイツはクナイブ療法(自然療法)に温点を上手に取り入れて、いろいろな病の治療が健康保険で行われています。また、温泉を飲む習慣があり、モダンな飲泉場が温泉地には多く見かけます。味はあまり美味しくはありません。日本のお茶飲みの習慣と似ています。ドイツの温泉利用には、日本は見習うところが多くあるように思われます。

 炭酸泉の温泉で有名なのは、大分県の長湯温泉です。ここではドイツを意識して飲泉場があり、ドイツ村もあります。和歌山県の椿温泉は南紀白浜温泉の先にある一軒屋で、太平洋が一望できる炭酸浴は、命の洗濯の心境です。

 炭酸泉の効能が大きいので、人工炭酸泉が出来ています。充分な炭酸ガスを供給することにより、天然の炭酸泉と同等の効果が期待できます。当館の人工炭酸泉の入り心地は如何ですか?手足の冷え性の方、心臓の弱い方は積極的に利用されることをお勧めします。必ず良い効果が現れます。

鉄泉

 炭酸泉と緑ばん泉の2つがあります。水1キログラム中に2価の鉄イオンまたは3価の鉄イオンが10ミリグラム以上含まれるものであって、陰イオンの主成分が炭酸水素イオン又は硫酸イオンであるものをいいます。

 炭酸鉄泉は鉄イオンと炭酸水素イオンの結合した温泉で、湧出したときには透明でも、空気により酸化され褐色の色に変わり、3価の鉄錆となり沈殿します。鉄泉の温泉は多くありますが、有名な温泉地は、タオルが褐色に色づく伊香保温泉、金泉・銀泉で有名な有馬温泉などがあります。鉄は皮膚からも吸収するので貧血に効果があります。有馬温泉病院では鉄分の多い温泉が患者に有効とされ、鉄分が薄いと患者から苦情がでるそうです。

 緑ばん泉は鉄イオンと硫酸イオンが結合した温泉です。強い酸性のものが多く、銅、コバルト、マンガンなどを含んでいるものも多く、造血作用が高いので貧血には有効です。

 いずれの鉄泉も、よく温まり、リューマチ性疾患、更年期障害、子宮発育不全、慢性湿疹に効果あります。当館の湯船の褐色も鉄泉によるもので、効果は上記の通りです。充分に堪能され健康で幸せな生活をお送りください。

 次回は残りの5種類の泉質のお話です。

著者:荒井孝